舞台の仕事をやって、役者関係ではない一般のお客様から良く言われた事があります。
「よくあんなに長い台詞覚えられるね」
あなたもドラマや舞台を観ていてそう思ったことがあるでしょう。
子供の頃、学芸会で親御さんにそう褒められた方もいらっしゃるかも知れません。
ドラマと舞台では覚え方が若干違ったりしますし、台詞量とかにもよって個人差はありますが、
今回は舞台において、演じていく上でこう覚えた方が後々楽だよというやり方をお伝えしていきたいと思います。
先に伝えておくと
- 台本を最初から最後まで何度も読む
- 相手の台詞を意識する
- 自分の台詞を覚える
になります。
ではどうぞ。
台本をもらってすぐに自分の台詞にマーカーで線を引かない
これやっている方、滅茶苦茶多いです。
台詞があまりに少なくて、見失わないようにチェックするくらいならいいのですが、
自分の台詞にマーカーで線を引くのは推奨しません。
なぜなら台本を客観的に読めなくなるから
自分の台詞をどうしても意識をしてしまい、何ならもうその役に入り込んで感情を入れて読み始めたりしてしまうから。
特に配役が台本を渡されるのと同時の場合はやらない方が良いです。
なぜか?
続けていきます。
まずは台本を客観的に読み、どんな物語なのかを理解する
配役が決まっていても、いなくても、必ず最初は台本すべてに目を通し、その台本はどんな物語なのか、この話のテーマはなんなのか何度か読んで理解する必要があります。
なぜそんなことをするのか。
それは「どんな物語なのか」「テーマはなんなのか」を理解することで、自分の台本上で与えられた役割を後々理解しやすくなります。
もちろんこの時点ではあくまでも客観的に、配役が決まっていないものとして純粋に読んでください。
配役が決まっていないならむしろラッキー。
最初のうちに台本を何度も読み返して、全体像を理解しましょう。
どんな話なの?って聞かれて、文庫本の裏表紙に書いてある「あらすじ」のように説明できるくらいまで読んでいたら、もう台詞覚えの1/3は出来ています。
全体像を理解したら自分の役を客観的に追って読もう
何度も台本を最初から最後まで読み、全体像を理解したら、自分の役をあなたとしてではなく客観的に追って、また台本を読み始めてください。
イメージとしてはテレビならずっとピンポイントでカメラに映ってる感じ。
舞台ならずっとその役をみている感じ。
ここで初めて、自分の台詞を意識しますが、まだ覚えようとしなくていいです。
まだ大丈夫です。
そして、また最初から最後まで、自分の出番がない時のページも飛ばさず、読んでみてください。
そうするとその役の色んな面が見えてくるはずです。
「優しいな」「あ、怒ってる」「それはダサいな」「そりゃ泣くわ」「頑張れよ!」などなど
そんな感じで読んでるとその役に共感できる事なんかもたくさん出てくるでしょう。
実は、この時点で台詞覚えの半分は出来ているはずです。
相手の台詞を意識する
物語中であなたの役は色々な台詞を、言葉を発しています。
なぜそこに台詞があるのか。
それは、相手の言葉を受けて、何かを思ったから
相手にこう変わって欲しいから、こうなって欲しいから発しているはずなんです。
なのであなたの役が言葉を発するのは「相手役ありき」なんです。
だからこの台詞を発したのは相手のなんて言葉に反応したんだろう
というのを考えながら、また最初からあなたの役の言葉を声を出さずに読んでみてください。
もう台詞覚えの7割は出来てますよ。
ここで初めて台詞覚えをしはじめる
今までの事をやったら初めて自分の台詞を隠しながら台詞を覚えるという作業をしていきます。
さっき客観的に読んでいた時に共感できる反応・言葉と共感できない反応・言葉があったと思います。
共感していた台詞はニュアンスだけでも何となく覚えているかもしれません。
共感できなかった台詞はあまり覚えていないかもしれません。
ここに至るまで台本を最初から最後まで何度読んだかわかりません。
でもそれだけ読んでいると、意識しなくても何となく覚えている台詞はありますし、今は覚えてなくても結構すぐに頭に入ると思います。
どうしても覚えなれない台詞とかもあるでしょうが、それは最後の最後、何個かだけでしょうから、
それは何度も変な抑揚は付けず、棒読みで声に出し、頭で覚えるというより、口に記憶付けするイメージで覚えてください。
これで全て覚えられたと思います。
何でこんな回りくどいやり方を書いたのか
なぜここまで回りくどい事をしたのか。
一つずつ暗記すればいいじゃないと思ったはずです。
実はこれが、時間は掛かるかも知れないけど、一番効率的な覚え方なのです。
役者における「台詞覚え」というのは言い換えると「体に入れる」
台詞を暗記して、順番に台詞を思い出しながら発していくのは、体に入れるとは言いません。
ただの暗記です。
もちろんまず暗記してから役を作っていくのもアリなんでしょうけど、
ただの台詞として暗記するのだけでも結構エネルギーと時間を使いますし、
舞台の場合は特に、暗記をしたら終わりではなく、その後、一つ一つの台詞の意味を考えたり、感情はどう動いているのか考えたり、台本上においての自分の役割だったり、ひいてはその世界でどう生きているのかなど。
挙げればキリがないくらいの作業=役作りをしなければなりません。
それだけやる事がたくさんあるとどうなるか。
大体、役作りが出来ていないまま舞台に立つか、
出来ていたとしても稽古期間中に滅茶苦茶やる事が多くてすごく辛い目に遭います。
でも今までお伝えしてきた覚え方は
- 物語のテーマを理解している=物語上においての役割を理解している=世界観を理解している
- 役に共感する=自分と似ている部分がある=役を演じるうえでリアリティがある
- 相手の台詞を意識する=相手の話を聞く=ちゃんとした会話になる
- 声に出さずに覚える=相手役がどんな表現をしてきてもリアルに反応出来る
- 棒読みで口に覚えさせる=その場に応じて表現を変えられるようになる
というものを同時に行ってきました。
この時点であなたは「台詞を覚える」のレベルはとっくに超えていて、ほとんどの台詞が「体に入っている」状態=思い出さなくても台詞を発することが出来るはずなのです。
もちろん全てが全て、出来ているわけではないでしょうし、これから稽古をしていく上で色々と演出家からダメ出しをもらうでしょう。
でも今まで書いてきたやり方で覚えることによって、遠回りに見えて、結果近道なんですよ。
何よりもただ「暗記する」という作業においては明らかにこのやり方の方がエネルギーを使わない。
さらには、その後稽古が始まってから解消しなければならない事が、レベルが高いものになっていく。
台詞を暗記してきただけの人と比べて、何倍もレベルの高いところから稽古に臨めるのです。
まとめ
始めにお伝えしましたが、
- 台本を最初から最後まで何度も読む
- 相手の台詞を意識する
- 自分の台詞を覚える
の順番が好ましいかと思います。
理由は今まで記述してきた通りです。
あくまで私の経験談、やり方です。
このやり方にあなたなりのアレンジを加えて頂いても構いません。
そのまま実践してみても構いません。
ぜひ「台詞を覚える」のではなく
「台詞を体に入れる」ようにしてみてください!